■素の暮らし1月 cenci イタリアン オーナーシェフ 坂本 健 さん

今月のエキスパート   坂本 健さんインタビュー

料理で人と人をつなぐ

料理人として生きる意味は、料理を通じて食材の作り手とお客様をつなぐことだと思っています。作り手の方がどういう思いで作られているかを、伝えることが一番の喜びです。一次産業の方々の美味しい食材を、しっかり愛情こめて調理をし、それを料理としてお客様に届け、喜んでいただくこと。そして生産者の方々に、お客様のたくさんの美味しいという声を伝えたり、食材がこんな料理になりましたと見せることで、すごく喜んでくださる。“自分の野菜がこんな料理になるんだ、それが大きい喜びにつながってる”とおっしゃってくださると、自分自身も充実する。それは自分の仕事がいろんな人を支え、役に立たせてもらっているんだと感じるからだと思います。美味しいという喜びでご縁をつくること、この食文化の中で意味を成す仕事の在り方が、これからの時代に何よりも大切だと思います。

素材を活かす料理
人の五感に働きかける美味しさ

一日の始まりは必ず市場から、と決めています。仕入れの有る無しに関わらず、作り手と話をすることと同じように、毎朝市場で会う皆さんと話をする。それは仕事に向かって自分を目覚めさせるような感覚ですね。料理人の大先輩たちも、どんな名店のご主人であったとしても、毎朝変わらず市場に顔を出されるのを見て、当たり前の事を続ける大切さを学ばせて頂いています。市場や作り手の畑に行くこと事で、作り手から素材に対する思いを受け取ります。ですので僕の料理は、素材を活かすことを最も大切にしています。

素材を追い求めていくと料理は、どうしてもシンプルになるので、ごまかしが効きません。素材を活かす術の一つには切り方が重要になります。切り方はあまり重要視されてはないのですが、そこにこだわることで美味しさをお客様に伝えていけるのだと思います。例えば、カブを千枚漬けのように均一に切らず、皮をむくようなラフさで荒っぽい切り方をします。味付けをしてもしっかり味がのらないところが出ますが、生の部分は細胞が留まるところになるので、噛んだ時に野菜そのままの味が口の中でふわっと広がります。これは野菜丸かじりの美味しさと同じような感覚ですね。トマトをかぶった時に皮を歯で突き破ることで、一挙に口いっぱいに香りが立つ。それを美味しいと感じるのです。本当に人の心に働きかけるのはそんな畑でかじった野菜のようなものだと思います。

素材を活かす術は器も重要です。素材の状態を一番に重視して料理を作るので、盛り付けはフランス料理のように繊細に美しく盛るというより、シンプルでどこか野暮ったいぐらいに仕上げます。だからこそ器のより力が必要となってきます。凜とした佇まいや独特の形など、料理と器の組み合わせでより一層美味しく魅せることができます。きれいに仕上がる完成形の一歩手前でとめておくと、食べてくれるお客様の喜ぶ場所ができる。イタリアンらしく新素材をその場でガンガン組み立て、人の五感に働きかける、素材の輪郭がしっかりした料理が僕の料理観です。お客様に出す料理はもちろん、日々のご飯も大切にしています。忙しいからといって、やっつけたものを食べるのは絶対だめだから、まかないも市場で食材を選び、安くても美味しいものを作ることができる組み合わせを考えるなど、主婦的思考回路も大事にしています。それが新たな素材を活かす料理のインスピレーションを生むことにもつながります。


cenci イタリアン オーナーシェフ 坂本 健 さん プロフィール
大学在学中に欧州旅行の際にイタリア料理の美味しさに出会い、料理人の道へ。伝説の名店 イル・パッパラルドで三年半務め、笹島シェフの独立に伴い、平成十四年に イル・ギオットーネに移籍。イル・ギオットーネ 丸の内開店の際には、笹島シェフと交互に店舗をマネージメントするポジションに。九年間料理長を務めた後、平成二十六年に独立、cenciをオープンする。

淀屋橋本店 営業時間

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