今月のエキスパート 上柳 満彩美さんインタビュー
日々がつくる“おもてなし”の心
嘉永から続くお茶屋の娘として、物心ついた時から祇園 花街で舞妓になるようにと育てられ、おもてなしの心は日々、自然と身につく環境でした。祇園 花街の仕事と言いますと、お客様のお食事やお酒の席でのお接待、ご招待なさる方のお席での踊りや三味線など芸事でのもてなし、言うなれば文化を味わっていただくことだと思います。おもてなしの心を磨くため、茶道からはじまり舞踊やお囃子、長唄など様々なお稽古ごとに日々励んでいます。お稽古ごとからは、ふすまの開け閉めなど立ち居振る舞いの基礎はもちろん、所作や言葉遣いなどひとつひとつの心配りを大切さを学びます。そんな日々の積み重ねがお客様の心を豊かに満すことへとつながります。花街が誇る伝統伎芸をより多くの人に伝えることで、日本本来の伝統の姿であるおもてなしの心を新しい世代に息づかせたいと思います。
古きを大切に新しく進化
新世代に伝える“花街のおもてなし”
芸妓としてお茶屋の若女将をさせていただいています。 お茶屋のお客様は“花街のおもてなし”を求められてお店まで足を運ばれる方が大半です。私たちのおもてなしは100点ではなく200点でやっとお客様に満足していただける特別なおもてなし。細やかな心配りはもちろんのこと、お座敷だけでなくお店にお越しになってお帰りになられるその時まで、空気の流れまでも五感全てで味わっていただくことを大切にしています。まず、おもてなしには空間づくりが欠かせません。玄関から始まり、お座敷までの廊下など至る所に心配りが必要です。
こんばんわ、とお客様が戸を開け、暖簾をくぐると四季折々の花が出迎える内玄関。表玄関の戸を開けて入ってこられたその時に、仕事のお疲れを忘れ心が落ち着かれるよう、造りにも工夫をしております。玄関から次のお座敷までの合間には、現実をふっと忘れてゆっくりしていこう、と思っていただける心をほぐすようなこだわりの空間を。お座敷では、床の四方に間接照明を設け、踊りを披露する舞妓や芸妓をひときわ美しく見せ別世界の風雅なひとときを。四季と共にあるようにと季節のお花や掛け軸もしつらえています。本来お茶屋は料理屋と別になるのですが、母の代からお商売をしていた料理屋もお座敷と同じ建物内に営業させていただいていますので、四季折々のお料理を冷めない距離で提供させていただいております。それらを全て合わせたおもてなしで生み出したいのは、お客様おひとりおひとりの心の栄養をおつくりすること。
そんな“花街のおもてなし”を新世代に伝えていくため、屋形の妹芸妓や舞妓達に踊りや唄などのお稽古をしています。体が資本の仕事ですので、同時に食事にも気を使っています。花街にふさわしい作法も、食事を一緒にすることで自然と学べるようにと、器を並べたりお茶をお出ししたり様々な手伝いをする中で、日々のお作法を学んでもらいます。また、新しい世代は古風なモノやコトが身近になく、例えば畳のある生活がほとんどなくなっていますので、襖の開け閉めや、手をついたご挨拶、三指立てなど礼儀作法の経験がない世代に受け継ぐことも一つ一つ丁寧にその意味や意義から教えています。無形文化遺産になった和食も伝統のいい部分を基本にしつつも、斬新さを取り入れて成功されているお店がたくさんあります。私たちの世界も文化や芸術の一つだと思いますので、同じように古きを大切に新しく進化させ、新世代に伝えていきたいと思います。
祇園東 芸妓・お茶屋 まん 若女将 上柳 満彩美 さん プロフィール
五花街の一つ、祇園東の現役の芸妓であり、京都祇園 お茶屋 まんの若女将。新しい世代への舞踊やお囃子、長唄などの芸の継承にも取り組む。ラジオのパーソナリティ、“映画木屋町DARUMA”の主題歌に抜擢され歌手デビューした縁から株式会社サンミュージックプロダクションのタレント所属となり、花街の伝統伎芸の配信など芸に関わる多岐に渡る活動を行う。