1.食品と自律神経の関係
小山 2013年12月に、和食がユネスコ無形文化遺産に登録されましたが、先生も大学や日本料理アカデミーの料理人さんと共に和食・出汁の研究や発信など、日本食の発展に尽力されていますね。
山崎 はい。研究や食育などの取り組みを通じて、日本食文化について、日本人自身が見直し、楽しんでもらうきっかけになればいいなと思います。
小山 以前から山崎先生が和食などを研究されていることは存じていましたので、私が細切り昆布の開発で、昆布の表面に浮き出るマンニットだけを取り出し商品化する際に、ご相談させていただきました。
山崎先生 無事に商品化して良かったです。今回は、生姜を使っているんですね。
小山 はい。どうぞ召し上がってください。
山崎先生 (一口食べて)生姜本来の味を生かした優しい味ですね。
小山 ありがとうございます。独自の佃煮製法によって、じっくりと時間をかけて生姜本来の旨みを引き出しています。山崎先生は、食品と自律神経の活動の関係、気分への効果などについて研究されていますが、生姜についてはどういった点に着目していますか?
山崎先生 生姜の身体を温める効果に着目しています。緊張をほぐしたり、リラックスしたり、といった効果が期待できます。生姜に含まれる成分で言うと、ショウガオールなどですね。ショウガオールはもとのジンゲロールよりも体を温める力が強いと言われています。ジンゲロールは脱水反応でショウガオールに変化していきます。
小山 生姜に含まれるジンゲロールを加熱するとショウガオールに変わるんですよね。以前、当社の生姜昆布という商品がよく売れていて、長時間炊いているのでショウガオールの含有量はどうかと思って調べました。非常に高い数値が出たので驚いて、山崎先生になぜか分かりますか、とすぐに連絡しましたね。
山崎先生 そうでしたね。
2.醤油による長時間加熱
小山 詳しく調べてみると様々な情報がネットに上がっていましたが、「なぜ佃煮にするとショウガオールが増えるのか」なんて書いた記事も論文もなかった。正確に知りたいと思い、先生に依頼しました。
山崎先生 何がショウガオールの増加に関与しているのかを明らかにするため、醤油や出汁、砂糖、加熱時間、加熱方法など一つ一つ調べていきました。その結果、醤油の添加物がジンゲロールからショウガオールへの変換を促していることが分かりました。また加熱時間を長いほうがよりショウガオールが顕著に増加することが分かりました。これらの結果は、学会でも発表し、現在論文をまとめているところです。じっくりと時間をかけて醤油で炊いた生姜の佃煮は、ショウガオールを効率的に増加させるのにぴったりな調理法ですね。
小山 今回は醤油で長時間加熱する佃煮という手法が、生姜の効果を引き出すということが証明できたので、ほっとしました。冷えが気になる方、クーラーが苦手な方に、温かいご飯のお供として食べていただき、心も体もぽかぽかになっていただきたいと思っています。
山崎先生 そうですね。運動不足やストレスなどによっても低体温になりやすく、低体温がいろんな問題を引き起こすと言われています。季節を問わず、ショウガオールを日頃から摂取することで、身体を温められれば、健康にもいいと言えますね。
小山 「神宗の生姜」は一食分(約10g)で、一般的な生姜湯の約25杯分のショウガオールを取り入れることができます。
山崎先生 約25杯分ですか! 日頃から生姜を食べるのは健康にもいいのですが、生の生姜だとそんなにたくさんの量を一度に摂取できないので、これなら毎日おいしく続けられますね。
小山 身体に良いものを、より美味しく、より安心して食べていただきたいと思っています。昆布、鰹節、北海道産の帆立貝柱、九州地方の干し椎茸などの出汁を効かせて、高知産の厳選した生姜を5時間かけてじっくり炊いています。その間、工場の職人たちは釜につきっきりで様子を見ながらかき混ぜ、火加減を微調整します。こうすることで、天然の甘みや旨みを最大限に引き出しています。
山崎先生 5時間も、かなり手間がかかっているんですね。
3.健康に繋がる食文化へ
小山 そうですね。ただ、天然のものの良さって美味しいだけではなくどのように健康に繋がるか証明したいと思っています。今回は生姜を佃煮にすることでこのような効果が実証できてよかったです。
山崎先生 今は小山さんから依頼のあった出汁と味覚の研究をしています。
小山 この度「神宗の飲むだし」を新発売しました。そこで、天然だしを継続的に飲むことで味覚改善に繋がらないかと思い、社内でテストを行ったところ良い結果が出ましたので、先生に相談しました。
山崎先生 小山さんからの相談を受けて、面白いなと思ったので共同研究することになりました。現在実験中ですが、興味深い結果がでたら、また学会や論文を通じて発表したいと思います。
小山 企業だけで行うには限界があるので心強いです。天然出汁の継続摂取が味覚の改善に繋がり、糖分や塩分の過剰摂取の抑制や嗜好の変化に繋がれば予防医学の観点で貢献でき、和食のアピールにも繋がらないかと思っています。
山崎先生 企業と大学が協力することでより面白く、人のお役に立てるような良い研究ができれば嬉しいです。
小山 今後も、天然の出汁の良さとは何か、様々な切り口で考えていく必要があります。
山崎英恵(やまざきはなえ)
龍谷大学農学部 准教授[専門分野]食品科学、栄養化学、自律神経活動、気分状態、おいしさ、嗜好、日本料理など[担当講義]調理のサイエンス、調理学実習[著書・論文]だしのおいしさに迫る(化学と教育)、柑橘系香気成分を含む飲料が自律神経活動や気分状態に及ぼす影響(アロマリサーチ)、コーヒー摂取が胃運動および自律神経活動に与える効果の検討(日本栄養食糧学会誌)など