2025年6月5日 日本フードスペシャリスト協会通常総会記念講演「関西のだし文化」

2025年6月5日(木)、東京都のアルカディア市ヶ谷にて、日本フードスペシャリスト協会の通常総会記念講演に、2022年度の名誉フードスペシャリストである小山が登壇いたしました。

フードスペシャリストとは、食の本質が「おいしさ」、「楽しさ」、「おもてなし」にあることをしっかり学び、食に関する幅広い知識と技術を身につけた食の専門家です。
食品の開発製造、流通、販売、外食などを担う食品産業をはじめ、食関係の広範な分野で活躍されている方々の前で、「関西のだし文化」にまつわる重要なキーワードを元に、お話をさせていただきました。

セミナーの様子

1.だしは「減塩」の鍵であり、「味覚のトレーニング」

だしの魅力は、その成分にあります。だしに含まれる「うま味」は、甘味、酸味、苦味、塩味と並ぶ五味の一つです。

①相乗効果で減塩に: だし単体では「おいしくない」と感じても、少量の塩が加わることでうま味が引き立ち、格段においしくなります。塩分濃度をわずか0.5%に抑えても、うま味がしっかりしていれば、体液の塩分濃度(0.9%)よりも低いにもかかわらず、満足感のある味になるのです。

②ノンカロリー・ノンオイル:だしはほぼゼロカロリーで、満腹度を高める効果もあるため、健康的な食生活に欠かせません。

③味覚の矯正(トレーニング): 毎日だしを飲む生活を続けると、微量なうま味や甘味を感じ取る味覚の閾値が向上することが共同研究で明らかになっています。これは、特定の音を聞き分ける「音楽のトレーニング」と同じく、だしを飲むことで「うま味」を意識的に見つけ出すトレーニングになっているためです。

2.大阪が「天下の台所」たる所以:水と物流の歴史ドラマ

関西のだし文化が花開いた背景には、日本の地理的・歴史的要因、特に「水」と「物流」が深く関わっています。

和食は、水が決め手となる「水の料理」

①軟水がベース:日本の軟水はミネラル分が少なく、素材の味やだしのうま味を抽出しやすいため、だしを多用する和食文化が発達しました。これに対し、中華は「油の料理」、西洋は「スパイスの料理」として発展しました。

②醤油・麺類の違い:関東の濃口醤油の文化は、味が強く臭みのある赤身魚やそばと相性が良く、強いカツオだしと合わせることで、互いの強い個性を打ち消し合います。
一方、関西の薄口醤油の文化は、繊細な白身魚やうどんのように香りが弱いものと合わせることで、素材とだしの「バランスの調和」がとれるのです。これは、もともと関東と関西の「水の性質の違い」から、作られる醤油の色や味が異なったことが影響しています。

3. 「北前船」が繋いだ昆布ロード

北海道の昆布が大阪に大量に運ばれたのは、江戸時代に西回り航路が確立した「北前船」のおかげです。

①文化を運んだ船:北前船は単なる輸送船ではなく、寄港地で交易を行いながら、文化も伝達しました。昆布だけでなく、北海道のニシンも関西に運ばれ、ニシン粕は綿の生産の肥料に使われ、日本の繊維産業を支えました。

②倒幕の裏話:昆布は単なる食材ではありません。富山藩と薩摩藩は、当時鎖国下で不足していたヨードを補う薬として中国(清)で重宝されていた昆布を密輸し、莫大な利益を得ました。この財産が、倒幕(明治維新)のための軍資金になったという歴史的な側面も持っています。

4.天下の台所「なにわ」の立地 

大阪が「天下の台所」として栄えたのは、地理的な優位性があったからです。

①水の都:大阪は淀川を通じて京都・奈良と水路でつながっており、水運が非常に発達したため、全国の物資が集まる流通の要衝となりました。

②三大市場:中之島周辺には、米市場(堂島)、魚市場(ざこば)、青物市場(天満)の三大市場が栄え、全国の年貢米が集まる蔵屋敷が集中していました。
現在のビジネス街「船場(せんば)」は、当時の経済の中心地であり、豪商・淀屋が米市を開き、後の淀屋橋の名の由来となりました。

このように、関西のだし文化は、清らかな水と、歴史的な大動脈である北前船、そして商人の町・大阪の活気によって育まれ、今日まで受け継がれてきたのです。

昆布もカツオも大阪のものではないのに、大阪にだし文化があるのは非常に不思議な感じがします。
ですがこのような貴重な機会をはじめ、だしの魅力や味覚トレーニング、そして歴史についてもっと幅広い方々に伝えて行ければと思います。

淀屋橋本店 営業時間

[ 店舗 ]
月~金 10:00~18:00
土   10:00~16:00
定休日:日・祝日
[ カフェ ]
月~金 10:00~17:00 (16:30 L.O)
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