細切り昆布のお酒と“あて”
家庭料理に簡単に取り入れられる細切り昆布。お酒と“あて”のマリアージュをめぐる料理研究家 大原さんとエスキス支配人兼シェフソムリエ 若林さんの熱い語らいをお届けします。
赤ワインによく合う「細切り昆布」
今回のテーマはお家で楽しむお酒と“あて”。家ご飯で使えるような手頃感のあるお酒を選んでいます。日本酒の大七はコンビニでも買えますし、缶ビールはもちろん、赤白共にワインもネットですぐに買えるものですよ。
“あて”も10分で出来る、彩りがいいものにこだわって作りました。「細切り昆布」と柴漬けのクリームチーズボールは材料をラップで包んで丸くするだけ。簡単だけどビジュアルがアートな感じになるので、パーティーメニューとしてもお勧めです。
このクリームチーズボールは、しば漬けのコリコリ感がすごく良いアクセントですね。漬物の香り、「細切り昆布」のうま味、クリームチーズのクリーミーな味わいは赤ワインに本当に合う。初めてレシピを見た時は日本酒が合うかなと思ったんです。素材が日本酒に合いそうだったから。実際に食べたらやっぱりこれは赤の方が面白いなと思って。
しば漬けは発酵のものですので、発酵しているお漬物とワインって合いますよね。
そうですね。発酵というのはいわゆるビールやワイン、日本酒もそうですが、旨み要素が入ってるので、結局漬物も発酵させますし、パンも一緒で、発酵しているもの同士だから合うわけです。この “あて”の面白いところは「細切り昆布」が都会的なんですね。実際、「細切り昆布」そのままでも赤ワインによく合います。正直「細切り昆布」を初めて頂いた時に、赤ワインならなんでもいいと思ったくらい。昆布の自然な香り、磯っぽい海の香りであるヨード香もあります。自然の味わいなのに味付けがしっかりしているから食べてすぐに飲みたくなったのは、軽いイタリアワインだったんです。日本の家ご飯を考えた場合に今はヘルシー志向ですので、オリーブオイルと「細切り昆布」を合わせてもおいしいと思いました。ソースみたいにしても使えると思うし、トマトにも合うと思います。こんな風にいろいろな食べ方を考えた時に、今回合わせたイタリア トスカーナの【カザマッタ ロッソ】のぶどう品種であるサンジョヴェーゼが一番合うと思いました。軽やかで香りがあるので、赤ワインが苦手な方でもすごく飲みやすいと思います。このワインはスクリューキャップですが、野ざらしにしない限りすぐには悪くならないです。あるボルドーのメーカーが、スクリューキャップとコルクキャップのワインを同じ量用意して、熟成度を比べたことがあります。コルクは空気が入ってきて熟成してくる。反対にスクリューキャップは熟成しないから、出来立てのフレッシュな味わいでデイリーのワインにはちょうどいいですね。
鶏ときのこの煮物に白ワインは合いますよね。
レモンがかかっていることがポイントなんです。魚料理にカットレモンを添えますよね。魚にレモンの酸味を入れると、臭みが取れるのもあるのですが、酸味はうま味を引き出すものなので、酸味に酸味を合わせると酸っぱくならない、逆に甘くなるんです。甘みに甘みを足すと、甘さが半減したように感じるんです。【ヴィーニャ・エラスリス 】の白ワインの香りはレモンなんですよ。ヨード香もあります。
デイリーのお酒代表 缶ビール
デイリーのお酒といえば、缶ビールですよね。秋鯖のフライに缶ビールの組み合わせはとても合うと思います。
フライにはやっぱりビールかなと思って。スパークリングやシャンパンも合うと思いますが、デイリーとして家にあるビールに合わせたかったんです。ビールの中でも【サッポロ赤 ラガー】にした理由は、衣がついた揚げものに対して普通のビールだとボディが足りないから。ラガービールは普通のビールと比べると発酵温度が違うので、キレがあって旨みがしっかりしている。そこが「細切り昆布」のしっかりした味わいや、鯖の持つ味わいや脂身に合うんですね。また、鯖は他の料理では赤ワインを合わせるのが基本です。それもあって、パンチがあるラガービールを選びました。
鯖のフライにたっぷりの「細切り昆布」をのせて青じそを巻いて、タルタルソースで食べる。タルタルは赤タマネギとピクルスとお昆布入り。「細切り昆布」は全然しつこさがないでしょう。普通の塩昆布は少ししか使えないけど、たっぷりと使えるのがすごくいいなって思って。
普通、こんなにたくさん料理にかけたら・・・・・
塩っ辛くて食べられないですもんね。「細切り昆布」はとっても万能ですよね。
缶ビールの余談ですけど、テレビの収録でビールのシーンがあって、缶ビールを提案したんですけど却下されたんですね。缶ビールをだとメーカーが分かってしまうからなんですけど。だから完全に小道具として架空の銘柄のビールを作れないか、と提案したんですけど、缶ビールを飲む時は基本グラスがないじゃないですか。そのまま飲むことになるので、すごく飲みにくい。結局生ビールになったんですけど、実は飲みやすくするテクニックがあるんです。開け口を開けて、そのすぐ下の辺りをぐっと親指で押して、えくぼを作るんです。そうするとビールが対流して一気に流れてくるからすごくおいしく飲むことができるんですよ。
それは面白いですね。
宴会とかバーベキューの時なんかは絶対にいいと思いますよ。
奥京都、花背の料理旅館「美山荘」の次女として生まれ、山川の自然に囲まれて育つ。小学四年生のころから二十人分のまかない料理を担当するなど、料理の五感を磨く。二男一女の母として子育て、家事に加え、雑誌、テレビなどのメディア出演や講演、ケータリングなどで活躍。忙しい主婦の気持ちに寄り添った無駄のない合理的で作りやすいレシピも好評。
1964年長野県生まれ。エスキス 支配人兼シェフ・ソムリエ。あの、故ジャン・クロード・ヴリナ氏から、もっとも厚い信頼を得ていた日本のソムリエ。1991年小田原の「ステラ マリス」シェフ・ソムリエ。1995年東京・恵比寿の「タイユバン・ロブション」に勤務、シェフ・ソムリエ。2003年「レストラン タテル ヨシノ」の総支配人を務める。2012年からトロワグロのシェフ、リオネル・ベカにパティシエの成田一世と共に銀座にエスキスをオープン。